高校進学の新しい風 (第2回)
§2 定時制の高校
◎都立定時制高校の特徴
定時制とは、授業時間を1日の中で3分割(3部)から4分割(4部)して選んだ時間帯の中で通う学校です。この定時制には「学年制」の学校と、「単位制」の学校が混在しています。
昔ながらの夜間定時制には、1年毎に必須単位を取り進級する「学年制」のところがまだまだあります。単位制とは、卒業までに取るべき単位を3年ないし4年かけて取得する制度で、最大6年の在籍が可能です。3年以上かけてもそれは留年ではなく、学年による1年生、2年生というような扱いもありません。ここでは「学年制」を採用している学校をこれまでと同じ「定時制」、それ以外を「定時制単位制」として簡単に説明します。
「定時制」(学年制を採用)
主に夕方〜夜間に授業を行います。年限は3年間もしくは4年間ですが、1年毎に取得単位数が決められているため留年もあります。取りこぼせば、その学年を再度やり直しです。1年生〜3年生(4年生)と呼称します。
校舎は、全日制と共用で、校名も共通していることがほとんどです。
(例)都立豊島高等学校→全日制普通科と定時制普通科がそれぞれ共有
校舎と校名が共通だけで、入試も所属も完全分離しています。修学旅行も文化祭も、まったくの別物です。もっともその方が、過ごしやすいはずですね。混ぜられたら、やりにくくなります。
では分離しているから全てOKかというと、そうでもありません。一番肝心な1部と2部の間に講座の共有など往き来できる制度が、まったくありません。完全別物ですので、全日制、定時制それぞれで完結を目指します。(←当然ですね)ですから、夜間で取りこぼした授業を昼間受けさせてもらって、ちゃっかり単位を間に合わせるなどは認められていません。結果、中途退学者が多いのは、昔からの問題点です。
こちらのいわゆる定時制は、昔からのお馴染みの方式ですね。この定時制は、だんだんとその役割を見直す(併合や改変、チャレンジ・エンカレッジスクール化)または終える(廃校など)といった状況に変化しています。学力検査(入試)は、全日制と同日程で都立共通3科目です。
「定時制単位制」
学年ではなく、取得単位により在籍年数が変わります。卒業までの目安として1年毎の推奨取得単位数はありますが、取りこぼしても次年度で取得し直せます。したがって留年はなく、最大6年間の在籍が認められています。学年がありませんので、学校にもよりますが1年次生〜3年次生というような呼称を取ります。
ただし留年がない代わりに6年間で必要単位が取れなければ、卒業そのものが認められません。入試からやり直しになります。必ず中途退学者が出ますが、ほとんどの学生さんは、3年間で卒業していきます。その理由の一つですが、①の夜間定時制とは違い、時間割がとてもバラエティに富んでいます。1部2部のみではなく、通常は3部制で中には4部(1日を6限毎に4等分)まである学校も存在します。
最大の特徴は、制限はあるものの部を越えた受講(他部受講)が認められていることにあります。各人必ずそれぞれの部に所属はしますが、講座は単位に応じてブリッジ出席が許されます。全員が同じ権利を有するので、柔軟性があり、もちろんクラス毎の違和感(だれあいつ?みたいな)はないです。現代を反映してか、3部制、4部制の人気は高く、また一般の夜間定時制より成果が上がっているとの報告もあります。たしかに朝の8時半頃から夜の9時半くらいまで開講していますから、相応のニーズに応えているということなのでしょう。
学生時代を昭和から平成初期に過ごされた方ですと、1部昼間、2部夜間というイメージが強いので馴染みにくいでしょうね。注目度の高いチャレンジスクールは、この枠の中に含まれます。入試は、チャレンジスクールを除いて原則都立共通5科目です。チャレンジスクールでは、学力検査がありません。学科も普通科から国際ビジネスコースなど、様々な学科が用意されています。商業高校と工業高校を足して総合高校となった例もありますから、むしろ普通科の方が少ないかもしれません。
※上記の詳細は、必ず学校毎にご確認ください。
◎定時制単位制高校の実情(近年は全日制単位制の学校も増えています)
様々な状況に置かれている生徒さんに開かれている、高等学校です。現在では少なくなっていますが、勤労学生がいたり、年齢層の幅が広いことも未だにあります。
しかしながら、定時制が夜間高校のイメージであった時代はすでに昔の話。現在のそれは、昼間でも自由に単位が取れる新時代の定時制といえるでしょう。大学のように自分で取るべく単位を時間割とともに組み立てて、ある者はゆっくり4年をかけ、ある者は普通の高校生と同じ3年で終えるといった設計ができるのが最大の特徴です。
また、進学校のような高偏差値ではなく、どちらかといえば勉強が苦手であったり、集団で個性を発揮しきれなかったりした生徒さんにも手を差しのべようとしているのが、現代の都立単位制高校です。
このように書くと、自由で伸び伸び、バラ色の高校生活が待っているようです。そうしたことを期待して単位制に集まってくる生徒さんが多いのも、また事実です。しかし学校個々の現状を見極め検討することは、人任せにせず、よくご自分の目で確かめなければなりません。倍率もそこそこで、レベルもそんなに高くないことから、高校進学そのものが厳しい生徒さんも「駆け込み寺」のように入ってくるというのも、偽らざる現状なのです。
◎定時制単位制高校の見極め方
※1年の1学期が正念場!
ある学校でのお話(実話です)。
1学期でクラスの半分がやめ、夏休み開けには学年の1クラス分が消えるなど、その環境にびっくりするのも単位制の特徴です。入学式から来ない生徒が数人いるのは、普通のこと。だから変な話、まず入学後からゴールデンウィークまで様子をみましょう。すでにその段階でドロップアウトが出ます。続いて1学期終了直前。そして夏休み開けと。
2学期(後期)まで残る生徒さんは、概して卒業までがんばります。やはり、まじめに取り組んでいける方がそろっていくものです。
「人は人、吾は吾」を貫かなければならないのも、実は単位制の厳しいところ。全日制普通科高校は、なんとなくみんなと一緒の波に乗って卒業という雰囲気もありますが、単位制は自分しだい。自由とはそういうことなのです。例えれば全日制普通科が、流れるプール。対して単位制は、だれもいない静かな湖面を一人オールでボートを漕いでいくといった感じです。だからこそ、入るときには易しくても、入学後の充実度は自分流。卒業後の充実度も高くなるといえるのです。
【ポイント】
単位制高校は、普通科よりもビジネス科や総合科といった画一的ではない科が多く、あまり協力的に大学進学を指向しているわけではない。
◎それでは、どんな学校がありますか?(豊島区から通学圏内)
飛鳥高等学校(全日制定時制単位制普通科)
北区王子6-8-8 ☎03-3913-5071 JR王子駅徒歩15分から20分(近道有)
本校の周囲は、他の私立中高や私立高校、公立小中に囲まれています。王子有数の文京地区に立地しています。豊島区からも大変利便性の高い学校です。
前身は都立北高等学校。元総理大臣の出身校でもあり、それなりの名門校として名を馳せた時代もありました。それ故かもしれませんが、定時制単位制としては新宿山吹高校と並び難関校に位置しています。全日制も単位制です。
入試時のSSは50前後であり、入学後の生徒分布はSS47~53くらいの学生さんが集います。入試倍率は、例年1.2~1.5倍(一般入試)で推移しています。ここ数年の定時制人気を反映してか、一般入試に関しては募集人数を少しずつ増加させている傾向が見られます。H27実績で、募集170名、応募者209名、合格者数173名となっています。同じ年の合格者男女比率は、23:150であり、圧倒的に女生徒の多い学校です。
定時制の中では、相対的に評判のいい学校です。通いやすく楽しい、まじめな生徒が多いなどの声も聞かれます。女生徒が多いことを反映してか、演劇部や女子バスケ、女子サッカー部、吹奏楽部に合唱部などがさかんです。海外への修学旅行を、積極的に実施していることでも知られています。シンガポール、マレーシア、韓国、ハワイ、グアムなどですが、国内のこともあり沖縄の年度もありました。
進学率は全体の6割くらいですが、日東駒専、大東亜帝国あたりに進学しています。
定時制の進学率としては、評価は高いといえるでしょう。残念ながら現校舎は、北高校時代のものであり古いです。
新宿山吹高等学校(昼夜間定時制4部・単位制普通科または情報科、通信制・普通科)
新宿区山吹町81番地 ☎03-5261-9771 池袋からはメトロ有楽町線江戸川橋駅徒歩10分、高田馬場よりメトロ東西線早稲田駅徒歩10分。都営バスで新宿西口から新宿山吹高校前停留所下車。旧都立赤城台高校(目黒区に移転して現都立国際高校)の跡地に設立された単位制高校。
不登校や過去にいじめられた経験など、種々事情のある生徒さんが多く通っています。そのため入試のときの内申は、ほとんど気にしなくても大丈夫です。代わりに学力検査は、しっかりと実施されます。これは、裏を返せば内申にとらわれず入試対策のみしっかりとやればいいということでもあります。出席日数や内申という足かせを外してもらえる、ということなのです。
試験科目は、2016までは3科目でしたが、2017年2月入試より5科になる予定です。東京都立共通問題による学力検査とグループ面接が実施されます。
自主自立精神がかなり強く、自由の意味をはき違えて入学すると思惑が外れる学校です。「先生方が生徒個々人にあまり干渉せず、自由な校風」「なんでもありのいい学校」という評価が多く聞かれますが、鵜呑みにすると間違いなくあてが外れます。干渉が少なく自由ということは、裏を返せば自分のことは自分でしっかりできる子にとってこその自由であるということなのです。他力本願の強いお子さんには、まったくオススメできません。
都立高校の内、チャレンジスクール指定の高校(入学時学力検査は実施されず同じく定時制単位制)がややもすると過干渉といわれ、手取り足取り卒業まで伴走しましょうという理念とは、対極にある単位制高校といえるでしょう。
勉強はきらいではないし、成績はまあまあ。でも今までの先生とはうまが合わないし、まして親の意見なんか、という生徒さんで自分の思い通りに学校生活をクリエイトして大学まで夢を見たいという方にオススメします。まさに大学のような自由な雰囲気と過ごし方が、冗談抜きで可能です。
出席管理から校則まで、しばられるという感覚はないようです。一般常識(当たり前ですが酒タバコの類は厳禁)が備わっていれば、校則が立ちはだかることもありません。制服はもちろんなく、私服です。だからでしょうか、染髪もさして注意されていません。部活動もサークル感覚で「みんなで大会目指してがんばろー」というような団結感や集団行動強制もないと聞いています。
もちろんなかよしグループで部活燃焼という団体は当然存在しますが、これにしても自由から出た発露です。部活にがんばるもやらないも、また自由です。最近の流行なのか、自転車部は健闘しています。これも個人競技ですから、なんとなく理由が解るような気がいたしますが。
修学旅行まで生徒の自主判断に委ねられ、別に行かなくても何の影響もないようです。「色々事情はあるだろうけど、いい想い出になるからみんなと行こう」と説得される学校とはエライ違いですね。逆に今回は参加希望者が少ないので、修学旅行は無し(中止ではない)にします、という年度も普通にあるとのことです。
がんばって大学に入れれば、高校生活も含めておよそ7~8年くらいは自由な学園生活が過ごせます。アメリカンスクール的ともいえるでしょう。中学時代いじめられていたり、処方薬を多用する病弱なお子さんを多く受け容れています。だからこそ、入学後のいじめはほとんどないと聞きます。お互いの辛さがわかっているからでしょう。
キャンパスは、オフィスビルや民家に囲まれていてグラウンドがないため、高校という感じがしません。校舎が高層7階まであるのも、学校としては珍しいですね。グラウンドの代わりに、体育館とプールが地下にあります。高齢者の生涯学習にも使われる設備のため、業者による清掃が行き届きとてもきれいです。バリアフリーにも対応していて、高層階用エレベーター3基と冷暖房完備です。もちろん生徒も「自由」にこれらを使用しています。(エレベーターは、なるべく3階以上でという自主規制があります)
(お断り)この文章は、個人の見解であり、クローバーの団体としての理念や考え方を反映したものではありません。